ある作品を上演するとき、原作に忠実に上演することが良いか、それとも上演する場所や役者によって弾力を持たせるべきかは意見の分かれるところです。国内の作品でも『一字一句変えてくれるな』という作家もいれば、『上演しやすいようにどうぞ』という作家もいて色々です。
もちろん、好き勝手に変えたり、作品の趣旨が変わってしまうのはダメだと思うけれど、僕は作品は役者にあわせてアレンジされるのが自然じゃないかと思います。
そういう意味で今回の『第二章』はとても宝塚らしくアレンジされていたと思います。
たとえばそれは幕の構成に垣間見れられます。宝塚版では原作の1幕第8場で第1幕が終わります。この場面はジョージとジェニファーがレストランで食事をした後、ジョージの家を訪れる場面。飲み過ぎたジョージをジェニファーが介抱しながらお互いの心の内を確認し合う、しっとりとしたシーン。最後は『二人が寝室に入るとき、照明、フェイド・アウトする』というト書きで去って行きますが、ここで幕が下ります。
すると当然、2幕幕開けが原作で言うと1幕9場からとなります。この場面はレオがジョージに夫婦の危機を知らせ、ジョージがレオに早すぎる結婚を打ち明けるシーンです。最後はレオに結婚を1ヶ月待てと説得されたジョージがジェニファーに結婚を延期しようと電話するのですが、やっぱり予定通りすぐに結婚しようということになって、本来はここで幕が下ります。
たぶん、初めて観た人は8場で幕が下りても何の違和感も感じなかったと思いますし、僕も観ていて『ここで幕が下りた方が良いかも』と思えました。9場だと電話をしているため、舞台上で距離がある状態で幕が下りることになりますが、8場だと2人が近い距離で幕を下ろすことができます。『宝塚の公演』ということを考えると8場で幕の方が『らしい』感じがします。『現作に忠実に』という立場に立てば、とんでもないことなのかもしれません。
また、(2)の最後に書いた2幕の終わり方ですが、これは宝塚の脚本家の使命感のようなものを感じました。原作の終わりはカリフォルニアから帰ってきたジョージがジェニーのマンションに電話をかけ、二人の人生を始めようと伝え、書き上がった小説の冒頭を電話越しに読み聞かせるシーンで終わります。ここでポイントとなるのはきっとこの部分。
ジェニー もちろん、今すぐそっちへ行くわ。
ジョージ いや、このまま読んであげる。このチャンスを逃したくない。
ジョージはこう言って受話器越しに朗読を始めます。ニール・サイモンの原作は『電話』をポイントにおいて、出会いも電話、1幕の終わりも電話、2幕の終わりも電話で揃えたのだと思います。しかし、先ほども述べたとおり、この距離のある状態は終わり方としてはスマートなのだけれど、盛り上がりに欠ける面もある。やっぱり二人の距離は近い方が良い。
そこで宝塚版ではこの電話で『5分間テストからやり直そう』という話の展開になります。2人が初めて話した『電話』では無く、直接会った『5分間テスト』に戻すことによって、最後に2人が対面する仕組みを作ったわけです。そして、ジェニファーが部屋を飛び出し、ジョージの部屋に駆け込む。ここでジョージは書き上がったばかりの小説の献辞を読み聞かせ、『引っ越すことと』『前妻のお墓に報告に行こう』を提案、ジェニファーがジョージの胸に飛び込み幕。
冷静に比較すると宝塚版はやり過ぎかもしれませんが、たぶん、これが最初に述べた『役者にあわせてアレンジ』という作業がここに凝縮されているのではないかと思います。
・・・ということで、3回目の観劇は10月11日(金)の14時30分公演。3列目の上手ブロック。
昨日の2公演目とは反対側だったので、今度は上手をいたときの表情とジョージのデスクの正面ぐらいだったので、ジョージの表情がよく見えるだろう席でした。
轟さん。個人的には正直、全くタイプでは無い男役さんです。『暁のローマ/レ・ビジュー・ブリアン』で月組に出演された際に『上手な人だなぁ』とは思いましたが、それ以上ではありませんでした。でも、前回の『おかしな二人』、特に今回の『第二章』ですっかりと魅了されてしまいました。ジェニファーとの恋愛に浮かれる姿は実に軽やか。そして圧倒的な存在感での受け身。永く宝塚の男役のトップに君臨されているのにはそれだけの理由があるのだと思いました。
夢咲さん。星組の娘役トップになってからの作品も何作品か観ているのですが、今回は全く印象が違いました。トップ・コンビというのは基本的には寄り添うわけで、真正面から対峙しても対峙しきれない感じが残るものですが、今回は轟さんが相手ということもあって、独立した女性という感じが強く表現されていたから印象が違ったのだと思います。星組ファンにとっては柚希・夢咲コンビの作品を一作品でも多く観たい思うと思うのですが、僕は今回の作品が観られて良かったと思いました。
元々、ニール・サイモンは大好物なので楽しみにしてきた『第二章』でしたが、またまた『作品』と『役者』と『観客』の関係を考えさせられる、はるばる宝塚まで観に来た甲斐のある作品でした。