新宿のラーメン屋さんの続きです。何故、記事を分けたというと書き始めたら、お師匠様との思い出話が長くなってしまったからです。
桂花
こちらもお師匠様が大好きだったラーメン。こちらは伝統もあるお店で昔から通っていたらしい。ウチのお師匠様は映画監督だったので職業柄、新宿の映画館に足繁く通っていたそうで、映画と映画の合間にここのラーメンを食べていたそうな。その名残か、お師匠様に連れられて映画や演劇、演芸などを観た帰りに連れて行ってもらいました。
良く晴れた日は新宿御苑へ行き、ベンチに座りながら朗読の稽古を付けてもらい、雨の日は映画館で映画を観る。お師匠様が選ぶのはCGなどが使われていない映画で、上映館の多くないものが中心でした。シンプルな脚本で奇抜な演出のない、日常を切り抜いたような作品が好みでした。その帰り道、多く立ち寄ったのが桂花でした。
初めて連れられて行った時はお店に入った瞬間に香り立つ『ここは桂花です』という匂いに驚きましたが、今ではすっかり慣れました。ここに来るとお師匠様のことを思い出します。今は無くなってしまいましたが、今の「新宿ふあんてん」があるところにあった1階の店舗に良く立ち寄っていました。そこでその日に観た映画のシナリオやカット割り、役者さんの目線などについて細かく解説してくれました。ラーメン屋さんに長居するのは気が引けましたが、夢中で話してくれるお師匠様の話を一生懸命聞いていました。
僕はずっと舞台畑を歩んできていましたが、映像のお師匠様を持ったことで考え方の変わったことがありました。例えば脚本の読み方。ある場面でそのキャラクターがどういう気持ちで、どういう考えで、どういう体調で、どのように存在しているのかを場面を区切って、自分に説明できるような形で整理して考えるようになりました。もちろん、舞台でも大切なことですが、映像の場合には稽古もほとんど無く、同じセットの場面をまとめて撮影したり、次のシーンの撮影が数日後といったことが多くあるわけで、きちんと整理できていないと、前の場面から全然つながっていなかったりすることもあり、場当たり的な芝居になってしまうとの教えに基づきます。だからこそ、場面ごとに明確に役の状態が分かってなければならない、作品全体を把握した上で場面ごとに求められる役割を理解することが必要だと良く聞かされました。
それから、科白を言う際の瞬きの回数が減りました。当たり前ですが、人間は無意識に瞬きをします。カメラに写ってみると自分が結構瞬きをしていることが分かります。これが観ている人間にとっては結構なストレスになること、気持ちの表現が伝わりにくくなってしまうことなど経験に基づく話をたくさん聞かされました。そして、これは未だに癖になっていて、気づくと目が乾いていることが良くあります。
他にも色々なことを教わりましたが、今のようなことになるのが分かっていたら、もっと演出とか作劇について教わっておけば良かったなと思うことがあります。その一方で、当時それを聞いても理解は出来なかったかなとも思います。
そんなお師匠様とお別れしてから数年が経ちますが、新宿の街を歩くと所々で思い出が蘇ってきます。
さて、閑話休題。桂花のお話。
メニューは『太肉麺』が人気なのだそうですが、僕が頼むのは『桂花拉麺』。炭水化物好きとしては桂花拉麺に替え玉というのがいつもの流れです。ここの麺は加水低めのプツプツと歯切れの良い麺で濃厚なスープとの相性は抜群。つけ麺の時はモチッとした麺が好きですが、ラーメンの場合は少し歯ごたえのあるような麺の方が好きです。スープは好みの分かれるところですが、間違いなくここでしか食べられないという個性があります。