宝塚旅行から戻り一夜明け、今日は渋谷へお出かけ。
JR渋谷駅で降り、ハチ公口を出て、109方面へ歩く。都内で唯一苦手なのが渋谷。どうも人酔いするんです。新宿よりも池袋よりも人が多いような気がするからかもしれません。
109の北側、文化村通りの坂を上る。多くの場合、劇場に向かう時は楽しい気分なことが多いのだけれど、どうもこの坂ではそういう気持ちになれない。この坂を上ると東急百貨店があり、その裏側にはBunkamuraがあり、目的地はシアターコクーンなのだけれど、ここにはあまりいい思い出があまりないからだと思う。
この会場で『楽しかったなぁ』と記憶しているのは市村正親さんの30周年リサイタル『おもちゃ箱』ぐらいです。結構、来ているはずなのにパッと思い出せる芝居が他にありません。理由は単純で、コクーンのラインナップは苦手だからだと思う。
そして、たぶんこれ以上苦手な演劇は無いであろうものが今日観る『唐版 滝の白糸』。唐十郎さんの本だし、もう観ないと決めていた蜷川幸雄さんの演出だし、普通だったら絶対に近づかない演目。では、何故、ここに来たのかいえば主演が大空祐飛さんだから。大空さんが宝塚を退団して1年と3ヶ月ぐらい。他の人だったら観に来ないが大空さんなら観に来ざるを得ない。
これは好みの問題なので、『そこが良いんだ』という人が沢山いるから興業が成立しているわけなのだけれど、どうも蜷川さんのビジュアルの強い演出は苦手(@@) 一時期は蜷川さんの舞台を沢山観ていた時期もあり、例えば『今まで観た芝居の中で印象深いものを10本』といわれれば、蜷川さん演出の1998年の彩の国さいたま芸術劇場の『十二夜』なんかは必ず挙げることになると思うのだけれど、ある時期から身体が受け付けなくなりまして・・・
さて、シアター・コクーンに到着。今回はチラシも見ず、Webページも見ず、どんな話かも調べす、ほとんど予備知識を入れずにいたので(予備知識を入れると足が遠のきそうだったので・・・)、会場に来て初めてポスターも観ました。そこには大きく、
【万事はこの一事から! それでは皆様、手首の蛇口をはずしましょう!】
その瞬間、『あ~ 手首切るのなぁ・・・ きっと勢いよく吹き出るんだろうなぁ・・・ きっと終わりは舞台真っ赤なぁ・・・(@@)』と思わず踵を返そうかと思ったけれど、『大空さんの舞台だ、大空さんの舞台だ』と自分を励ましながら会場へ。今日は前から3列目の下手側という好座席。
会場に入ると緞帳は無く、セットが見えている。戦後では無い感じ。昭和30年代~40年代前半頃が舞台なのかなとボンヤリ見ていると、天蚕糸がキラリと光るのが見える。何か飛ぶのか。上手の屋根の上に煎餅とかが入っていそうな缶が見える。あれ落ちるな。・・・など、一番悪い感じの芝居の見方になってきているのが自分でも分かる。こうなると、もう楽しむテンションでは無い。
すると、最前列のお客さんにはビニールシートが渡されているのに気づく。舞台で水が使われる時に濡れないように渡されるもの。そうでしょうとも、水ならともかく血糊が服に付いたら大変ですよ・・・などと思いながら開演を待ちました。
上演が誰も乗っていない自転車が下手奥から上手前に動く。『おぉ!』と思ったが、下手で天蚕糸を引いている手が見える。見切れてるというより見せているぐらい見えている・・・ う~ん、せっかくの幻想感が・・・(–;;
科白が始まると、蜷川さんの作品だなという感じが漂ってきます。強烈な演出家ほど役者の科白回しに色が出ると思います。蜷川さんの舞台の科白回しには美しい言葉のリズムが必要で、シェイクスピアや唐さんの科白だとそれが見事に生かされるのだろうと感じます。
青年アリダを演じる窪田正孝さんと怪しげな男・銀メガネを演じる平幹二朗さんの二人芝居で始まる前半から芸達者な方が次々と登場されるので飽きないし、話の内容もよく分かる。だけど、知識不足のせいか、何が主題なのかが全く分からず中盤に。
アリダ以外の登場人物が舞台を去ると自動的にクローゼットが開く。中に何も無いことを強調するように明かりが点いている。それを境に次第に舞台が暗くなる。ということは、これは視線誘導だとって、クローゼットをジッと見つめる。上手で煎餅缶の落ちる音がする。気にしない。暗い中、クローゼットの上に駆け上がる人影、ライトが点く。強いライトの中、浮かび上がる赤いドレスの大空さんの姿。
後半はひたすら大空さんを目で追う。話が良からぬ方向に進んでいっても、気にしない。大空さんに集中。水芸が始まって、菖蒲の花と噴水が出てきた瞬間に『最後、この噴水の水が全部赤くなるんだろうなぁ・・・』と頭によぎったが大空さんに集中。「手首の蛇口を外しましょう!」と大空さんが手首を切っても血糊が吹き出しても大空さんに集中。『きっとアリダがこの血を浴びてる』と思ってもそっちは観ない!
やがて、大空さんが舞台を去り、ラストシーンになって舞台を観ると案の定、真っ赤・・・
・・・ということで、久しぶりの大空さんの舞台姿は美しかったです。とても、1年前まで宝塚一スーツの似合う男役だったとは思えないぐらい。この先、どんな舞台に取り組んでくれるのか楽しみだし、可能な限り見に行きたいと思っています。しかし、大空さんを観に来て良かったなと思う反面、ストーリーは全然入ってこなかった。やっぱり、こういう話は苦手なんだなぁとつくづく。
でも、あと2公演分もチケット取っちゃってるんだよなぁ・・・(@@)