(この記事はいずれ2015年10月26日 @ 23:00に移動します)
東宝ミュージカル『ラ・マンチャの男』が10月4日から帝国劇場で上演されていました。あまり早く観に行くと何度も観たくなってしまうので、今回は前楽となる今日のソワレを選びました。
主演は9代目松本幸四郎さん。1969年の日本初演以来、この役を演じ続けて46年、公演回数は1200回を越えます。ミゲル・デ・セルバンデスの小説『ドン・キホーテ』を原作に、デール・ワッサーマンが脚本を、ジョー・ダリオンが作詩、ミッチ・リーが音楽を担当したこの作品は1965年の初演から今年で50年を迎える伝統ある作品です。
最近、めっきり来なくなった帝国劇場。あれもこれも観なければと思うのですが、どうも重い物語対する耐性が衰えてきているのか、あまり乗り気にならずにいます。しかし、ラ・マンチャは別格。やはり、公演期間中に一度は足を運ばねばと思います。
感想としては、この作品はもはや『作品を観る』というよりも『幸四郎を観る』ことが醍醐味になってきているような気がしました。
大好きな作品なのであえて言えば、作品としてのピークは随分以前に迎えていたのだと思います。僕が初めて観たのは1995年6月の青山劇場、当時の幸四郎さんは52歳。思い返してみても、作品の仕上がりとしては、その当時の方が良かったと思います。
それから20年が経過し、幸四郎さんは73歳。今日は随分とおかしなところで息継ぎをしていたし、段差に躓くなど足取りもどことなく不安げでした。幸四郎さんだけでなく、長く同じ役を務めているベテランの俳優陣はどことなく苦しそうにも見えました。体力と経験がいつ最高のバランスだったのかは分かりませんが、作品としては今日の上演より良かった日がきっとあったと思います。
しかし、です。そんなことはどうでも良い。そう思えるほどの圧倒的な迫力がありました。息も辛そうだし、足取りも軽やかとはいえないけれど、最初の瞬間から最後の瞬間まで、ミゲル・デ・セルバンデスであり、アロンソ・キハーナでした。これは、ある役をある役者が演じ続けることの価値を楽しむことができる日本の演劇のもたらした素晴らしさだし、その伝統を作り出した歌舞伎界の大看板がミュージカルでそれを体現している素晴らしさでもあると思います。
もはや役として存在しているとしか思えない幸四郎さんから目が離せない。そんな作品。何度観ても、劇中劇への導入である「さて、みなさま・・・」から始まる科白や「私は今まで・・・」から始まる狂気についての科白が頭に残る。まぁ、もう20年ぐらい常に唱えられるほど頭に残り続けてる科白なのだけれど、何度聞いてもその素晴らしさに感動します。特に「狂気」の科白は、もはや役の科白なのか本人の言葉なのか分からないほどの鬼気迫る叫びのようなものになっています。この科白を聞くだけでもこの作品を観に行く価値があるというもの。
また、幸四郎さんのソロとエンディングの『The Impossible Dream(The Quest.)』は何度聞いても感動のしどころ。
そう、道は極めがたく、敵は数多なりとも、なのです。
また、頑張ろう・・・と、そんな風に思わせてくれるミュージカルでした。