(他のエピソードに先んじて書くには理由があります。とにかく書きます!)
中入り後の演目は創作落語『山名屋浦里』、落語作家くまざわあかねさんによるもの。
以下、内容に触れますので、これからご覧になる方はご注意を。
語りはこの話が作られたきっかけから。『ブラタモリ』という番組で吉原を訪れたタモリさんがこの話の原型となる話を聞き、『これを是非、落語に』と鶴瓶さんに話したらしい。聞き終えての感想としては、鶴瓶さんに持ってきたタモリさんはやはりスゴイと思う。
物語の舞台は江戸時代。とある藩の江戸留守居役であった酒井宗十郎は堅物で通る人物。それ故に仲間内から何かと疎まれて、嫌がらせを受ける日々。そんなある日、宗十郎は次の寄合は真面目に話し合う会にしようと提案するが、次の会は『江戸の妻』、つまり吉原の馴染みの女を自慢しあうと趣向が決まっていると言われてしまう。もちろん、堅物で通る宗十郎にそんな相手がいないことは分かりきっての提案、彼に恥をかかせるための提案だった。それに気づいた宗十郎は見せてやると啖呵を切って前の寄合を中座。奴らを見返すために吉原一と呼び声高い山名屋の花魁である浦里に同席を頼みに。その話を聞いた浦里は意気に感じて・・・という物語。
物語が始まった時はそれまでの落語とそれほど変わりませんでした。ただ、物語の冒頭は宗十郎の苦労が語られるので、笑い溢れると言うよりじっくり聞き入るという雰囲気に。
展開としては山名屋の主人の宗十郎の頼みを袖にしようとすると、部屋の襖が開いて、浦里が現れるのですが、この場面の浦里の科白が始まった途端、鼻の奥がツンとなる感覚に襲われる。意気に感じた浦里が宗十郎の頼みを聞き入れる言葉の一つ一つが胸を打ちます。
そして、寄合に1人向かう宗十郎。相方を連れてきていないことを散々なじられ、前回の寄合を中座した無礼を謝れと詰め寄られる。そこに現れる花魁道中。ここから鶴瓶さんの本領発揮。立て弁で流れるような科白を聞かせてくれます。ここで物語は一気に盛り上がり、浦里の大芝居が絵が浮かぶように語られます。それまで悪態をついていた連中が浦里の魅力にねじ伏せられていく様子がそれはもう鮮やかに浮かび上がるのです。
最後は宗十郎が持ってきた金子を受け取れないと拒む場面。ここからは宗十郎の誠実さに惚れた浦里の切なさが浮かび上がる。切々と会いに来て欲しい伝える浦里の言葉に涙が止まらない。鶴瓶さんの言葉の力に完全にやられてしまった。廓話で男女の友情物というのは珍しいと思うのだけれど、物語の持つ力と演者の力とが相まって、最高に感動的な幕切れ。
緞帳が下りた後、人々が席を立ち、出口に向かい始めても、暫く席を立つことができなかった。たぶん、いつもにも増して集中していたから、反動で身体の力が抜けきってしまったのだと思う。なんとか席を立って、出口に向かうと本日の演目札が出されていたので、演目の確認のために一枚写真を。
ようやく外に出る。赤坂駅に向かおうかとも思ったのだけれど、ダメだと思って立ち止まる。完全に情緒不安定(>_<。) ちょっと思い出すだけで、また泣きそうだったので人の少ない一ツ木通りへ向かう下り坂へ。赤坂見附駅までとりあえず歩くことに。
その道すがら、頭の中で今観た『山名屋浦里』がどんな話で、どんな科白だったかを思い出していきます。思い出しながら、結局、また涙が出てくる。でも、ちゃんと憶えておきたいと思って、繰り返し繰り返し思い出して頭の中で整理していきます。高校生の頃は舞台を見る度にそうしていたのだけれど、最近はこの作業をしていませんでした。でも、なんとか頭から最後まで整理できました。
急なお休みで、急に観に行った落語会。しかし、こんなにも感動し、勉強になるものになるとは思ってもみませんでした。それに、よもや落語でこんなにも号泣する人がやってくるとも。こういう作品が作れるようになりたいなと切に感じた作品でした。