・・・ということで、南部地区発表会2日目の4校につきまして、講評で触れたこと、時間的に言えなかったことなどをまとめました。お気に召さない点もありましょうが、僕なりの観点からの感想ですのでご容赦を。もちろん、ご意見・ご感想があれば是非、お寄せください。僕も勉強させていただきたいと思います。また、学校ごとで分量の差がありますが、ポイントによって説明にかかる分量が異なるためですので・・・
川口東高校『全校ワックス』作・中村勉
名簿順で廊下のワックス掛けを割り当てられた5人の生徒が、次第に交流を深めていくというような物語。これも有名な高校演劇の作品です。幕開きから元気いっぱい、とても大きな表現で物語が進められていました。作品の性質上、掃除用具などの小物が多数登場するわけですが、それらのものを上手く使いながら、何よりもお客さんを楽しませようとする気概が感じられたのには好感を持ちました。また、江川役の3年生はやはり3年生、演出もされていたようですが演技が細やかで丁寧で、舞台上でお客さんを意識することができていたように感じられました。バケツの場面の表情は皆さん、とても良かったです。
残念だったことは、その楽しませようとする思いが強すぎたのか、皆が仲良く見えてしまったことです。脚本上に現れている飯野と大宅の行き違いはありましたが、それ以外の人々の関係性はまぁまぁ良好に見えてしまいました。ひょっとすると話を盛り上げようと息を合わせて取り組んだことが仇になったのかも知れません。そう感じたのは、舞台間口一杯にパネルを立てて廊下を表現していたのに、5人がわりとまとまって掃除をしていたところからです。もっと、舞台に散らばって、近づいたり離れたりを繰り返していた5人が、次第に狭いところに集まってしまって気まずい・・・というような作品だとすると、舞台の使い方にもう少し工夫が必要だったのかもしれないと思います。
鳩ヶ谷高校『3.11』作・鳩ヶ谷高校演劇部(生徒創作)
東日本大震災を題材にした物語。色々な側面がある題材だけに取り扱うのが難しいことを考えると、その意欲は素晴らしいと思います。作品としてはオープニングから中盤の転換、終わり方などとても気が配られているように感じられました。登場人物の造形も個性がありましたし、科白も良く聞こえていました。瓦礫を模したと思われるパネルも良く出来ていましたし、ライティングも綺麗でした(コロガシを見えるように置くのについては賛否が分かれるところだと思いますが・・・)
それだけに残念だった点は物語の軸がハッキリしなかったことです。訴えたいことがたくさんあるのは分かるのだけれど、盛り込みすぎてそんなに盛り込む必要があったかなぁ、と感じました。講評でも申し上げた通り、特に最後の津波に溺れて、生きるか死ぬかの千鶴が意識が遠のく中で見た慎太郎の霊的なもの(この慎太郎は千鶴が知らないことを語るので千鶴の幻覚とは受け取れない)が、震災後の特に福島の困難な状況を具体的に語り、それでも生きるのかと問うわけです。もちろん、慎太郎には未来が見える設定を物語冒頭から振っていましたから、慎太郎の霊的なものであれば、『未来が見える』というのは辻褄は合います。ただ、慎太郎がそれを持って千鶴に『苦しい未来を生きるか、それとも死ぬか』と迫った瞬間、震災による困難な状況が『死を迫る道具』になってしまったように感じられましたし、慎太郎は死神的な役割しか背負えなくなったように感じました。また、友人たちの霊的なもの(これも千鶴が知らない面を描く以上は千鶴の幻覚とは受け取れない)たちが、散々、死に導こうとしておいて、エピローグで千鶴を楽しげに見守るのはどうなのでしょうか。終わりを良い感じにまとめるがための都合の良い展開のように、私には感じられてしまいました。作者として重い展開を用意したのであれば、あり得るべき結末を描くことで責任を取ることを考えるべきです。
南稜高校『通勤電車のドア越しに』作・金井達 潤色・南陵高校演劇部
最終列車のドアに首を挟まれた男と乗り合わせた知人などによる物語。季刊高校演劇掲載の本らしいです。大島役を演じた1年生はずっと舞台に立っている役を見事に演じきっていました。この役は科白も多く、制約の多い役なので大変だったと思います。他の登場人物の皆さんもそれぞれのキャラクターをきちんと丁寧に演じていました。作品のコミカルな一面も十分伝わっていましたし、電車のセットも一生懸命に作った感じが伝わってきましたし、全体的に丁寧に丁寧に舞台作りに取り組んだということが伝わってきました。
講評で『コメディを意識して練習しましたか?』と聞きましたが、『違う』とのお答えを頂きました。なので、とても丁寧に芝居を作る学校さんなんだなぁと感じた一方で、その丁寧な芝居作りが脚本の無理を浮かび上がらせてしまう皮肉な結果になってしまったと感じました。例えば『ドアに首が挟まれた男』というのは普通はあり得ないシチュエーションです。普通はすぐ開けられます。もし、これを常識的な展開にするには、まず開けられない事情が主たる話題になるはずで、それならば真面目に演じることで物語が浮かび上がるかもしれません。しかし、次から次に理不尽な状態が積み重なるこの話では、真面目に演じると様々な仕掛けが、破綻した設定のように浮かび上がってしまいます。だとすると、様々な理不尽な状況をパワフルに吹き飛ばし、『普通、こうしない?』と思わせる隙を与えない必要があったのだと思います。大島以外のキャラクターがもっと派手にボケ役に徹して、大島が次々と鋭く突っ込んでいくようなコメディーのテンポが作れていたら、きっと作品の魅力をもっと引き出せていたのではないか、またそれが出来そうな学校さんだったと思いました。
戸田翔陽高校『とどのつまり、よもやま。』作・ふくすけ(顧問創作)
演劇部の部員たちが幾つかの行き違いから、部活を離れていくのだけれど、それを乗り越えて再び集まり作品作りに取り組んでいくというような物語。会話の雰囲気はとても自然な感じでした。少し小さくて聞き取れないところもありましたが、全体として流れるように話が進んでいきましたので、それほど気になりませんでした。3年生のお二人がとても上手でビックリ。その熱演に後輩の皆さんも良く応えていたと思います。大道具も黒板カラーのパネルにホワイトのテープで黒板などを描く抽象度のある凝った作りになっていましたし、照明や音響についても非常に練られたものになっていました。
ただ、その大道具と脚本の方向性が合っているかなぁ・・・と思いました。大道具はデザイン性の高いものでとても綺麗でしたが、そこで展開される物語はシンプルな演劇部もの。舞台上に沢山の段ボールが配されていて、それをイスにしたり、机にしたり、また雑然とした様子の表現にも使われていたのですが、そういうのは(かつての筑波大坂戸の黒ボックスのように)特定の大道具を置いてしまうと、他の場面で有効でないときなどに使うと効果的であり、今回のように『部室でしかない場所』の場合、その抽象度が本当に必要だったかなぁ・・・と少し思ってしまいました。
脚本はお話としてはまとまっていましたし、破綻も無いし、科白運びも聞いていて良いなと思いました。でも、講評でも話題となったとおり、それぞれのキャラクターの造形と行動の動機は弱かったと思います。僕のメモには「動機」「動機」「動機」とたくさん書いてあります。僕は演劇にそれほどドラマチックな展開を求めない方ですが、それでも演劇部もの、つまりは青春物であれば、やはり求められるあるべき展開があると思います。特に『なぜ、再び集まったのか』、そこに一番強いドラマが必要だったのだと思いますが、それを「手紙で呼び出されたから来た」という展開にしてしまったために、それぞれのキャラクターの再び集まるべき強い動機が見えづらくなった気がします。たぶん、3年生の2人はもっと重い展開にも十分耐えられたと思えただけに、少し残念でした。
その他
全体的にちょっと気になったことを。この地区は全体的にホリゾント(大黒よりホリが多かった)やSS、コロガシを多用する傾向がありました。これだけ多いということは、きっと地区の技術講習会などで学ぶ機会があったのかなとも思います。もちろん、「使っちゃいけない」ということではありませんが、「使うなら、きちんと使いましょう」と思います。
ホリゾントに色を入れるのは綺麗ですが、シーリングやフロントからの明かりを調整しないと舞台は見づらくなります。SSを使うなら演技エリアの確認が必須、明かりから外れてしまったり、ライトを背にして相手に影を当ててしまったりと、立ち位置を外す可能性が高いなら使わない勇気揉む必要。まして、複数の人間をSSの中で動かそうとすれば、それ用の稽古が相当量、必要になります。
かつての埼玉にはSSを点けてたまま、舞台上に十数人の人物を動かし、かつ真ん中の人に影を当てないような演出のできる学校がありました。それはそれは綺麗でしたが、その舞台の裏の稽古量を知っているだけに、僕はSSには簡単には手を出しません。つまり、色々な講習を受けて、色々な技術を知ることは良いことですが、知ったものを何でも使えば良いというものではありません。色々なものを知った上で、取捨選択するのが演出の大切なポイントになると思います。
初審査、お疲れさまでした。
具体的だし、とても鋭い劇評で面白かったです(ちゃんと自分を出しているし)。なかなかこんなふうには書けないものです。
こんなのが書ける人なのだから、最後なんて言わずに、これからは毎年審査員をやらなければいけないなと思いました。
コメントありがとうございます。
いやいや、イヤです(+_+)
ですが、感想など書いてみて、改めてnatsuさんやyassallさんやmomさんが色々と書いてくださることが大変な作業なんだと改めて思いました。
誰でもイヤです。でもできる人がイヤがって逃げると、
できもしない人が出てきてしまいます。
それは、演劇部員たちにとって不幸なことです。
なので、頑張ってください。
私の方はボチボチ・・・・
コメントありがとうございます。
また、今年度県内最終審査、お疲れさまです。
審査に行ってみて分かったことが色々ありますので、
今度お目にかかった時に色々とお話しさせてください。
とてもじゃないですけど、ここでは書けません(+_+)