『あなたへ』高倉健

『南極物語』『駅STATION』に続いて、3日連続となる高倉健さんの映画。テレビ朝日で放送された降旗康男監督の『あなたへ』を観ました。2012年、東宝の映画。健さんの最後の作品。

同じ監督の作品を2日続けて観たわけですが、やはり『あなたへ』の方が格段にわかりやすい内容になっていると感じられました。脚本家の違いとも言えるのかもしれませんが、それよりは時代の要請であるのではないかと。

昨日観た『駅STATION』では事件の流れについては皆よく話すが、それ以外のことについてはあまり多くを語らない。それに対して『あなたへ』では登場する人物たちは皆、良く喋ります。物語の後半に進むにつれ、言葉数は減っていくように感じられましたが、それでも『駅STATION』よりはたくさん話していたように感じられました。

個人的に好きだった場面をいくつか。

門司で英二(高倉健)と南原(佐藤浩市)、田宮(草彅剛)が再会する場面で、田宮の振る舞いを南原が制するところ。この辺りの英二と南原のやり取りは多くを語らずお互いを理解するという昔の日本映画の男の姿が描かれていたかなと思います。そこから物語を進めていくメモを南原が英二に渡すわけですが、この場面を境にそれまで雄弁だった作品が急激に変化していくように感じられました。

次いで、多恵子(余貴美子)が娘(綾瀬はるか)のウェディング・ドレス姿の写真を英二に託すシーン。その前に多恵子が南原のメモを見るのが印象的に描かれているので、そういうことなのだろうと思うわけですが、この場面の多恵子の科白は切ない。言葉で語っていることと、実際にして欲しいこととは異なるけれど、亡き夫に娘の晴れ姿を見せたいという思いの伝わる場面。これを受ける英二の表情がまた素晴らしい。

そして、散骨の場面。英二を船に乗せた大浦(大滝秀治)の姿が印象的でした。調べてみると大滝さんと健さんは6歳しか違わないそうだ。映画では『そういう人がいてもおかしくない』とという説得力がなければならないが、健さんを向こうに回して、年長者の貫禄を見せつけることができるのだから、大滝さんの存在感は素晴らしいとしかいいようがありません。考えてみれば、大滝さんにとってもこれが遺作だったわけです。残念でなりません。

そして、ラストシーン。英二が南雲に写真を渡すシーン。ここは、どうなんだろうと思った。素晴らしい場面だし、見ていて何の不満も無いのだけれど、昨日の今日だからか、どうしても思ってしまう。これがもし、もっと科白を絞り込んだらどんな仕上がりになったのかな、と。写真を渡された南雲が語るわけだけれど、語らずとも追われたような気もする。何故かというと写真を託す場面が確信を言葉にせず、良い感じだったので、写真を受け取る方もそうできたのかなと思ってみたりしたわけです。でも、今時の映画としてはサスペンスドラマの犯人が最後に延々と身の上話をするように、丁寧に解決しとかないといけないのかなとも思ってみたり。わかりやすさも良し悪しですね。

最後にもう1つ思ったのは自然の描写についてです。『駅STATION』に映し込まれていた自然はどれも迫力のある映像でした。特に雪や波しぶきの力強さの迫力はその地方の環境の過酷さを伝えてくれるものでした。しかし、『あなたへ』の台風の描写はそうは感じられなかった。台風の映像はニュース映像で見慣れているせいもあって、イマイチ迫力に欠けるものでした。もちろん、安全性を考えれば実際の台風の中で撮影したものではないでしょうから、無理もないわけですが。そう考えると、昔の映画はかなり無茶な撮影をしていたのだなぁと改めて思ってみたり。

こういう機会でも無いとなかなか観る機会もないと思って3日連続で観てみましたが、派手な映像で魅せる映画よりは、こういう映画の方が好きだと感じました。少し落ち着いたら、健さんの映画をもう何作品か見てみようと思います。

2件のコメント

  1. 昨日「あなたへ」をやっていたんだね。気付くのが遅れて、見逃しました。まあ、いいかなと。
    昔と今とでセリフの量の違い、確かにあるかもしれないね。ただ、健さんの場合はヤクザ映画の頃から、無言で思いを表現するところに真骨頂があった役者だから、時代はあまり関係ないかもしれない。
    問題は絡む役者の方で、周囲が喋り過ぎたら、健さんの芝居がわざとらしく見えてしまうこともあるような気がする。
    その点「駅STATION」は、主要な役者がみんな寡黙な芝居をしていたから、どの役者もすごく生きて(もちろん健さんも)、映画全体が締まっていたと思った。たぶん、脚本の倉本聰の力が大きかったのではないかな。

  2. コメントありがとうございます。
    確かに『あなたへ』でも健さんの科白はそれほど多くなかったように感じました。観ていて、おかしな感じはしませんでしたが、健さんと比較すると周りの人々が良く喋るので、物語はわかりやすかったと思います。
    『駅STATION』は言葉が少ない分、観る人の解釈によって印象が変わってくるような行間の広い作品のように感じました。それに比べると、『あなたへ』はある程度、誰が観ても同じような背景を想像するように作られている感じもします。
    この辺が脚本の力なのでしょうね。

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